ネスレ・アランの新約聖書では様々な元文批評(原文相違)を示す印が入っています。その一つの良い事例に気づいたので共有します。
ヨハネ13:32節のNAテキストには二つの原文相違がタグされています。
一つ目は小さな「□」で記してあって「[…]」のテキストはある原稿とない原稿があるとされています。元文批評の注釈にℵ*(ℵはシナイ写本の略、*は本文のことを意味します)では入っていないと示す一行目に対して、二行目の「ℵ2」では第2編集者が記入していると示すマークがあります。実際にシナイ写本でみてみると抜けていた文書は右の空白に書き込まれたことはわかります。
そして、二つ目の相違は【「】みたいな印で書かれています。「αὐτῷ」がある写本だと「εαυτω」になる違いですが、シナイ写本は三回取り上げられています。ℵ*(本文)では「αυτω」、そしてℵ2a(第2編集者の最初の変更)では「εαυτω」となります。実際の画像でよく見ると薄く書かれている。それを示すようにℵ2b(第2編集者の二つ目の変更)で「ε」を消したとされています。ここまで細かく分析されていることに驚きませんでしょうか。一文字がつけられ、そして消されることで、一つの写本の中でも3つの原文相違が発生している状態です。ちなみに、こちらの相違の意味ですが、訳する時の意味の違いはほとんどない中でも、しっかりと正確に書き写す人も、意味のない一文字まで足して、そして消す作業をしたことについても、驚きです。